多武峰に抜ける明日香最後の集落上(かむら)。その集落をはずれた谷間に薬師堂がある。杉木立に囲まれたお堂は訪れる人もなくひっそりと佇んでいる。谷川に沿って少し上に登ると岩がむき出しになった所があり、一筋の谷水が落ちている。業場として使われていたように思われる。ここにも祠があったのだろうか石組みのテラスがあり、下の方にお堂を見ることが出来る。この辺りは俗に飛鳥石と呼ばれる花崗岩の多いところで、石舞台までの斜面に200基を超える古墳が確認されているが、それらの築造に多く使われている。
今は植林された杉、桧の山だがつい100年ほど前にはまだ広葉樹の混在する林相だったのだろう。そういう風景をただイメージするしかない寂しさがある。
堂には似つかわしくないセコムのシール。心ない人間のため、人を拒絶する堂の扉。これでいいはずはないのだが、悲しくもある。