桜が散って下草が枯れ野を覆っていく。柔らかな緑はこの季節特有のものだろう。木々の新芽は光を透かし、指先に触れる感触もあくまで優しく頼りなげだ。こうして確実に時は過ぎ、世代交代を繰り返す。
浅川マキが亡くなったのは今年の1月だったか、「夜が明けたら」「カモメ」「さびしさには名前がない」…など、LPが1枚だけあった。心にしみいる重く、切ない、彼女のイメージの中に引きずり込まれる歌の数々。黒のマキシドレスにたばこの煙、存在感のある歌手だった。
立松和平は2月だったか、独特の語り口調は耳に残っている。そして先日、井上ひさし氏が亡くなった。尊敬に値する作家だった。それぞれが、それぞれの作品を残して去っていく。
大それたことは思わないが、自分は人々の心にいったい何を残せるだろうか。畑の緑の中で眩しい日差しを浴びながら、少しだけそんなことを思った。