年が明けた。深夜の月明かりの中、橘寺と岡寺に詣った。静かな橘寺と対照的に岡寺は参拝者で賑わっていた。新年に対する期待感なのか、皆少し浮かれたような顏をして坂を上ってくる。すべてのひとに分け隔てなく新しい年がやってくるのだ。明かりに照らされた塔と、鐘楼の前には新年の鐘を撞こうと人々の列。香とかがり火の煙りが漂う本堂前で生姜湯をいただく。龍の鎮まる龍蓋寺は諸人を受け入れている。
最後に氏神さんの石段を上りながら今年は何が出来るのだろうかと、重い心の扉を開いてみた。そういえばこの八坂さんに毎年両親とともに参拝した。12時が過ぎると暗い石段を上った。当時は深夜のかがり火もなく、皆夜が開けてからお参りをしていたようでいつも私たちだけだった。帰ってから父に従って祝をした。父は我が家の当主だった。今は明かりの点いた参道と広場のかがり火。当番の人達が迎える。お参りをし挨拶を交わす。お神酒をいただき帰り道、心の底の澱のようなどろどろはまだ消えず、思い切り吸い込んだ冷気を一気に吐き出してみた。思えば毎年それをひきずってきたのかも知れない。また一年が始まる。